2020年1月30日 (木)

最1判令和2年1月23日(平成29年(あ)第2073号)が,従前の「第1審判決が被告人の犯罪事実の存在を確定せず無罪を言渡した場合に,控訴裁判所が第1審判決を破棄し,訴訟記録並びに第1審裁判所において取り調べた証拠のみによって,直ちに被告事件について犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をすることは,被告人の前記憲法上の権利を害し,直接審理主義,口頭弁論主義の原則を害することになるから,かかる場合には刑訴400条但書の規定によることは許されない。」旨の最高裁判例を維持する旨の判決言渡し。

最1判令和2年1月23日(平成29年(あ)第2073号)が,従前の「第1審判決が被告人の犯罪事実の存在を確定せず無罪を言渡した場合に,控訴裁判所が第1審判決を破棄し,訴訟記録並びに第1審裁判所において取り調べた証拠のみによって,直ちに被告事件について犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をすることは,被告人の前記憲法上の権利を害し,直接審理主義,口頭弁論主義の原則を害することになるから,かかる場合には刑訴400条但書の規定によることは許されない。」旨の最高裁判例を維持する旨の判決を言い渡しました。

情報元はこちら→http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/182/089182_hanrei.pdf

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主 文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理 由

検察官及び弁護人の各上告趣意のうち判例違反の主張について

1 第1審は,犯行日を平成27年5月とする窃盗1件,詐欺1件,詐欺未遂3件については被告人を有罪とし,懲役2年6月,4年間執行猶予に処したが,犯行日を同年3月とする,平成28年6月28日付け起訴状記載の各公訴事実(詐欺3件。以下「本件公訴事実」という。)については無罪を言い渡した。

本件公訴事実の要旨は,被告人は,いずれも家電量販店において,(1) 不正に入手したAを被保険者とする健康保険被保険者証及びA名義のクレジットカードを使用してAになりすましてクレジット機能付きポイントカードをだまし取ろうと考え,入会申込端末を使用して,氏名入力画面に「A」と入力するなどし,カード発行手続業務等の業務委託を受けている会社の社員に対し,Aになりすまし,Aを被保険者とする健康保険被保険者証及びA名義のクレジットカードを提出するなどして,クレジット機能付きポイントカードの交付を申し込み,同ポイントカード1枚の交付を受け,(2) 上記家電量販店店員に対し,Aになりすまし,上記ポイントカードを提示して財布2個等4点の購入を申し込み,その交付を受け,(3) 同店店員に対し,Aになりすまし,上記ポイントカードを提示してゲーム機1個の購入を申し込み,その交付を受け,それぞれだまし取ったというものである。

2 被告人及び検察官の双方は,第1審判決に対し,いずれも事実誤認を主張して控訴した。

原判決は,全ての事実について犯人ではないから無罪であるとする被告人の主張を排斥し,本件公訴事実について,第1審判決は,被告人の犯人性を推認させ,又はその推認力を補強する間接事実の推認力や第1審関係証拠の証明力の評価を誤った上,これらを分断的に評価し,適切な総合評価を行わなかった結果,被告人が犯人であったとするには合理的な疑いが残るとの結論を導いたものであり,この認定,判断は,論理則,経験則等に照らして不合理であるといわざるを得ないとして,事実誤認を理由に第1審判決を破棄した。さらに,第1審判決が公訴事実の存在を認めるに足りる証明がないとして,被告人に対し,無罪を言い渡した場合に,控訴審において自ら何ら事実の取調べをすることなく,訴訟記録及び第1審裁判所において取り調べた証拠のみによって,直ちに公訴事実の存在を確定し有罪の判決をすることは,刑訴法400条ただし書の許さないところとするのが最高裁判例(昭和26年(あ)第2436号同31年7月18日大法廷判決・刑集10巻7号1147頁,昭和27年(あ)第5877号同31年9月26日大法廷判決・刑集10巻9号1391頁。以下,両者を併せて「本件判例」という。)であると言及しつつ,同条ただし書に関する本件判例の解釈は,今日においては,その正当性に疑問があるとした。そして,本件控訴審においては一切事実の取調べをしていないが,直ちに判決をすることができるとして自判し,被告人を本件公訴事実についても有罪として,懲役2年6月に処した。

3 上記昭和31年7月18日大法廷判決は,事件が控訴審に係属しても被告人は,憲法31条,37条等の保障する権利は有しており,公判廷における直接審理主義,口頭弁論主義の原則の適用を受けるのであって,被告人は公開の法廷において,その面前で適法な証拠調べの手続が行われ,被告人がこれに対する意見弁解を述べる機会を与えられなければ,犯罪事実を確定され有罪の判決を言い渡されることのない権利を保有するとした上で,「本件の如く,第1審判決が被告人の犯罪事実の存在を確定せず無罪を言渡した場合に,控訴裁判所が第1審判決を破棄し,訴訟記録並びに第1審裁判所において取り調べた証拠のみによって,直ちに被告事件について犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をすることは,被告人の前記憲法上の権利を害し,直接審理主義,口頭弁論主義の原則を害することになるから,かかる場合には刑訴400条但書の規定によることは許されないものと解さなければならない。」として原判決を破棄し,事件を第1審裁判所に差し戻した。そして,上記昭和31年9月26日大法廷判決も同旨の判断をした。その後,本件判例に従った最高裁判例が積み重ねられ,憲法31条及び37条の精神並びに直接主義及び口頭主義の趣旨を踏まえた刑訴法400条ただし書の解釈として,第1審判決が被告人の犯罪事実の存在を確定せず無罪を言い渡した場合に,控訴審が第1審判決を破棄し,犯罪事実を認定するときには,事実の取調べを要するとの実務が確立し,被告人の権利,利益の保護が図られてきた。

原判決は,判例変更をすべき理由として,刑訴法の仕組み及び運用が大きく変わり,第1審において厳選された証拠に基づく審理がされ,控訴審において第1審判決の認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることを具体的に指摘できる場合に限って事実誤認で破棄されること,起訴前国選弁護制度や取調べの録音録画の実施により被告人が黙秘権を行使することも多くなっていること,本件判例に抵触しないために検察官から請求された証拠を調べるとすると,取調べの必要性も第1審の弁論終結前に取調べを請求できなかったやむを得ない事由も認められない証拠を採用することになること等を挙げ,本件判例の解釈は現在ではその正当性に疑問があり,直接に事実の取調べをせずに自判しても,実質的にみて,被告人の権利,利益の保護において問題を生ずるものとは考えられないとの判断を示した。

しかし,原判決が挙げる刑訴法の制度及び運用の変化は,裁判員制度の導入等を契機として,より適正な刑事裁判を実現するため,殊に第1審において,犯罪事実の存否及び量刑を決する上で必要な範囲で充実した審理・判断を行い,公判中心主義の理念に基づき,刑事裁判の基本原則である直接主義・口頭主義を実質化しようとするものであって,同じく直接主義・口頭主義の理念から導かれる本件判例の正当性を失わせるものとはいえない。そうすると,本件判例は,原判決の挙げる上記の諸事情を踏まえても,いまなおこれを変更すべきものとは認められない。

原審は,本件公訴事実の存在を確定せず無罪を言い渡した第1審判決を事実誤認で破棄し,およそ何らの事実の取調べもしないまま本件公訴事実を認定して有罪の自判をしたのであって,原判決は,本件判例と相反する判断をしたものであるから,破棄を免れない。

4 以上からすれば,この点に関する検察官及び弁護人の論旨は理由がある。

よって,弁護人のその余の上告趣意に対する判断を省略し,刑訴法405条2号,410条1項本文により原判決を破棄し,同法413条本文に従い,本件を東京高等裁判所に差し戻すこととし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

検察官菅野俊明,同小橋常和 公判出席

(裁判長裁判官 山口 厚 裁判官 池上政幸 裁判官 小池 裕 裁判官 木澤克之 裁判官 深山卓也)

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この判決の「この点に関する検察官及び弁護人の論旨は理由がある。」との判示から分かるとおり,この事案は,「原判決に対し,検察官及び弁護人の双方が『そりゃおかしいだろ!』といって上告し,最高裁も『そりゃおかしいだろ!』といって原判決を破棄した。」という珍しい事案です。

一口で言ってしまえば,「原審裁判官が独自の解釈を振りかざしてやらかしてしまった。」という事案ですね。

こんな判決(原判決)を書かれたら当事者はたまったものではないわけで,原審裁判官には,自己の傲慢を思いっきり反省して欲しいです。

特に,原判決は,判例変更すべき理由として,「本件判例に抵触しないために検察官から請求された証拠を調べるとすると,取調べの必要性も第1審の弁論終結前に取調べを請求できなかったやむを得ない事由も認められない証拠を採用することになること」を挙げているのですが,この判示は,第1審取調証拠以外の新たな証拠の取調べについて,検察官請求証拠の取調べだけ念頭において,弁護人請求証拠を一顧だにしない点で,とりわけ,酷いです。

すなわち,この事案で控訴審の事実取調べを必要とする趣旨は被告人の権利保護(手続保障)なのですから,控訴審の事実取調べで第1審取調証拠以外の新たな証拠を取り調べるのであれば,それは,検察官請求証拠ではなく,弁護人請求証拠でしょう(つまり,この事案の場合は,「控訴審で関係各証拠を入念に取り調べたが,それでも有罪と判断できる。」ということを確認するために控訴審の事実取調べを行うのですから,控訴審で第1審取調証拠以外の新たな証拠を取り調べるのであれば,それは,「控訴審で弁護人請求証拠を新たに取り調べたが,それでも有罪と判断できる。」ということの確認のための取調べでなければ,おかしいのです。)。

ところが,原判決は,第1審取調証拠以外の新たな証拠の取調べについて,検察官請求証拠の取調べだけ念頭において,弁護人請求証拠の取調べは一顧だにしていません。

これでは,原審裁判官は,「この事案で控訴審の事実取調べを必要とする趣旨を全く分かっていない。」といわれても,仕方ないでしょう(だからこそ,検察官,弁護人及び最高裁判所の三者からフルボッコなのですが。)。

現行の刑事訴訟法では,上告理由は憲法違反及び判例違反に限定されており(刑事訴訟法405条),あとは例外的に上告受理してくれるに過ぎません(刑事訴訟法406条)。

ですから,高等裁判所が,事実上,実質的な審理を受けられる最後の機会となっています。

だからこそ,高等裁判所には,まともな判断をしてほしいと思います。

2020年1月23日 (木)

宿泊予約無断キャンセルで岸田治子(51)及び岸田治博(30)の親子を私電磁的記録不正作出・同供用及び偽計業務妨害の容疑で逮捕。

宿泊予約の無断キャンセルで,岸田治子(51)及び岸田治博(30)の親子が,私電磁的記録不正作出・同供用及び偽計業務妨害の容疑で逮捕されました。

情報元はこちら→https://news.nifty.com/article/domestic/society/12145-537280/

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虚偽の宿泊予約疑い、親子逮捕=ポイント得る目的か―京都府警

 宿泊予約サイトでホテルに虚偽の予約をして無断キャンセルし、ホテルの業務を妨害したとして、京都府警サイバー犯罪対策課などは22日、私電磁的記録不正作出・同供用と偽計業務妨害の疑いで、いずれも住所不定の岸田治子(51)、息子の治博(30)両容疑者を逮捕した。2人は虚偽の予約でコンビニなどで使える特典ポイント約190万円分を入手しており、府警はポイントを得る目的だったとみている。

 同課によると、治子容疑者は「共謀した事実はない」などと容疑を否認。治博容疑者は認めているという。

 逮捕容疑は昨年8月28日、宿泊する意思がないのに、ホテルや旅館の宿泊予約サイト「一休.com」で京都市内の四つのホテル(宿泊料金計8万2220円)を予約。無断キャンセルし、ホテルの業務を妨害した疑い。

 同サイトで宿泊施設を予約すると、料金の一部が「Tポイント」として還元され、コンビニなどで利用できる。

 同課によると両容疑者は昨年2月~10月、同サイトで虚偽の宿泊予約を少なくとも2215件行い、約190万円分のTポイントを入手。無断キャンセルによるホテル側の被害総額は約8160万円に上るという。 【時事通信社】

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いやいや…。

そりゃ,これだけやれば,立件されるでしょ…。

もちろん,「ちょっとなら良い。」というつもりはないのですが,あまりの規模にビックリしたもので…。

最近,旅館業だけではなく,飲食店などでも,無断キャンセルが問題となっています。

無断キャンセルされた方は,予約を前提として仕入れ,シフト組みなどを行っているわけですから,無断キャンセルによって損害を生じるのは,誰の目にも明らかなわけです。

そして,仮に無断キャンセルによって100万円の損害が生じたとしたならば,その損害をカバーしようと思ったら,利益率10%の事業でも,1000万円の売上が必要になります。

これ,事業者にとっては,とんでもなく大変なことです。

無断キャンセルは,ガンガンと立件して欲しいと思います。

警察,検察,頑張れ!

2019年12月25日 (水)

 合資会社を退社した無限責任社員が負担すべき損失の額が当該社員の出資の価額を超える場合には,定款に別段の定めがあるなどの特段の事情のない限り,当該社員は,当該会社に対してその超過額を支払わなければならない

最3判令和元年12月24日(平成30年(受)第1551号)が,「 合資会社を退社した無限責任社員が負担すべき損失の額が当該社員の出資の価額を超える場合には,定款に別段の定めがあるなどの特段の事情のない限り,当該社員は,当該会社に対してその超過額を支払わなければならない。 」旨を判示しました。

情報元はこちら→http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/113/089113_hanrei.pdf

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平成30年(受)第1551号 遺留分減殺請求事件

令和元年12月24日 第三小法廷判決

主 文

1 原判決中次の部分を破棄する。

(1) 被上告人の請求を認容した部分

(2) 上告人の相殺の抗弁を認めて被上告人の上告人に対する172万4773円の不当利得返還請求及びこれに対する遅延損害金の支払請求を棄却した部分

2 前項の部分につき,本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理 由

上告代理人山田克己の上告受理申立て理由第1について

1 本件は,亡Aの長女である被上告人が,Aがその所有する一切の財産を長男である上告人に相続させる旨の遺言をしたことにより遺留分が侵害されたと主張して,上告人に対し,遺留分減殺請求権の行使に基づき,第1審判決別紙遺産目録記載の各不動産について遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続を求めるとともに,上告人が上記遺言によって取得した上記財産のうち解約済みの預貯金及び現金並びに上記各不動産の一部について上告人がAの死後に受領した賃料に係る不当利得の返還等を求める事案である。被上告人の遺留分の侵害額の算定に関し,合資会社B(以下「本件会社」という。)の無限責任社員であったAが,退社により本件会社に対して金員支払債務を負うか否かが争われている。

2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

(1) Aは,本件会社の無限責任社員であったが,平成23年11月,後見開始の審判を受けたことによって本件会社を退社した。

(2) 本件会社は,上記の退社当時,債務超過の状態にあった。

3 原審は,合資会社が債務超過の状態にある場合であっても,無限責任社員は,退社により当該会社に対して金員支払債務を負うことはないと判断して,Aの本件会社に対する金員支払債務を考慮することなく被上告人の遺留分の侵害額を算定し,被上告人の請求を一部認容するとともに,上告人の相殺の抗弁を認めるなどしてその余の請求を棄却した。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 無限責任社員が合資会社を退社した場合には,退社の時における当該会社の財産の状況に従って当該社員と当該会社との間の計算がされ(会社法611条2項),その結果,当該社員が負担すべき損失の額が当該社員の出資の価額を下回るときには,当該社員は,その持分の払戻しを受けることができる(同条1項)。一方,上記計算がされた結果,当該社員が負担すべき損失の額が当該社員の出資の価額を超えるときには,定款に別段の定めがあるなどの特段の事情のない限り,当該社員は,当該会社に対してその超過額を支払わなければならないと解するのが相当である。このように解することが,合資会社の設立及び存続のために無限責任社員の存在が必要とされていること(同法576条3項,638条2項2号,639条2項),各社員の出資の価額に応じた割合等により損益を各社員に分配するものとされていること(同法622条)などの合資会社の制度の仕組みに沿い,合資会社の社員間の公平にもかなうというべきである。

(2) 前記事実関係によれば,無限責任社員であるAが本件会社を退社した当時,本件会社は債務超過の状態にあったというのであるから,退社時における計算がされた結果,Aが負担すべき損失の額がAの出資の価額を超える場合には,上記特段の事情のない限り,Aは,本件会社に対してその超過額の支払債務を負うことになる。

5 以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,被上告人の請求を認容した部分並びに上告人の相殺の抗弁を認めて被上告人の上告人に対する172万4773円の不当利得返還請求及びこれに対する遅延損害金の支払請求を棄却した部分は破棄を免れない。そして,Aが退社により本件会社に対して金員支払債務を負うか否か及びこれを考慮した被上告人の遺留分の侵害額等について更に審理を尽くさせるため,上記各部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林 景一 裁判官 戸倉三郎 裁判官 宮崎裕子 裁判官 宇賀克也)

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正直,本判決の判示は,私的には「当たり前でしょ。」という感じで,「何でこんなのが論点になるの?」,「何で最高裁がわざわざこんな論点のために判決書くの?」などと思って本判決を読んでみたのですが,読んでみて納得です。

退社社員負担損失額が退社社員出資価額を下回る場合については,会社法611条1項の明文規定で持分払戻しが明記されているのに対し,退社社員負担損失額が退社社員出社価額を上回る場合については,退社社員の超過額支払義務が会社法の明文規定で明記されていないため,「これは,退社社員の超過額支払義務を否定する趣旨なんじゃないの?」と解釈する人が出てくるわけですね。

まぁ,私は本判決を結論も理由も支持するわけですが(多分、大多数の方がそうでしょう。),そもそも論としては,「初めっから法律で明記しとけよ!」と思います。

 

 

2019年11月27日 (水)

有期労働契約を締結していた労働者が労働契約上の地位の確認等を求める訴訟において,契約期間の満了により当該契約の終了の効果が発生するか否かを判断せずに請求を認容した原審の判断に違法があるとされた事例

最1判令和元年11月7日(平成30年(受)第755号)が,「有期労働契約を締結していた労働者が労働契約上の地位の確認等を求める訴訟において,契約期間の満了により当該契約の終了の効果が発生するか否かを判断せずに請求を認容した原審の判断に違法があるとされた事例」について判示しました。

情報元はこちら→http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/020/089020_hanrei.pdf

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主 文

1 原判決中,被上告人の労働契約上の地位の確認請求及び平成27年4月1日以降の賃金の支払請求を認容した部分を破棄する。

2 前項の部分につき,本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

3 上告人のその余の上告を棄却する。

4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

理 由

上告代理人石井将,同宮原三郎,上告復代理人渡邊典子の上告受理申立て理由第1について

1 本件は,上告人との間で期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結して就労していた被上告人が,上告人による解雇は無効であると主張して,上告人に対し,労働契約上の地位の確認及び解雇の日以降の賃金の支払を求める事案である。

2 原審の確定した事実関係等の概要及び記録によって認められる本件訴訟の経緯は,次のとおりである。

(1) 上告人と被上告人との間の労働契約等

ア 上告人は,建築物の総合的な管理に関する業務等を目的とする株式会社である。

イ 被上告人は,平成22年4月1日,上告人との間で,契約期間を同日から同23年3月31日までとする有期労働契約を締結し,上告人が指定管理者として管理業務を行う市民会館で勤務することとなった。なお,上記労働契約には,契約期間の満了時の業務量,従事している業務の進捗状況,被上告人の能力,業務成績及び勤務態度並びに上告人の経営状況により判断して契約を更新する場合がある旨の定めがあった(以下,被上告人と上告人との間の労働契約を「本件労働契約」という。)。

その後,本件労働契約は,上記と同様の内容で4回更新され,最後の更新において,契約期間は平成26年4月1日から同27年3月31日までとされた。

ウ 上告人は,平成26年6月6日,被上告人に対し,同月9日付けで解雇する旨の意思表示をした(以下,これによる解雇を「本件解雇」という。)。

(2) 第1審における経緯

被上告人は,平成26年10月25日,上告人に対し,労働契約上の地位の確認及び本件解雇の日から判決確定の日までの賃金の支払を求める本件訴訟を提起し,同年12月18日の第1回口頭弁論期日において,最後の更新後の本件労働契約が,契約期間を同年4月1日から同27年3月31日までとする有期労働契約である旨の訴状に記載した事実を主張した。

第1審は,平成29年1月26日に口頭弁論を終結し,同年4月27日,被上告人の請求を全部認容する判決を言い渡した。同判決は,その理由において,本件解雇には有期労働契約の契約期間中の解雇について規定する労働契約法17条1項にいう「やむを得ない事由がある」とはいえず,本件解雇は無効であるとし,被上告人は労働契約上の権利を有する地位にあるというべきであるとした。

(3) 原審における経緯

上告人は,第1審判決に対して控訴をし,本件労働契約が契約期間の満了により終了したことを抗弁として主張する旨の記載がされた控訴理由書を提出した。

被上告人は,上記の主張につき,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである旨を申し立てるとともに,雇用継続への合理的期待が認められる場合には,解雇権の濫用の法理が類推され,契約期間の満了のみによって有期労働契約が当然に終了するものではないところ,本件労働契約の契約期間が満了した後,契約の更新があり得ないような特段の事情はないから,その後においても本件労働契約は継続している旨の記載がされた控訴答弁書を提出した。

原審は,平成29年9月14日の第1回口頭弁論期日において,上告人の上記の主張は時機に後れた攻撃防御方法に当たるとしてこれを却下し,口頭弁論を終結した。

3 原審は,上記事実関係等の下において,本件解雇には労働契約法17条1項にいう「やむを得ない事由がある」とはいえず,本件解雇は無効であるとし,最後の更新後の本件労働契約の契約期間が平成27年3月31日に満了したことにより本件労働契約の終了の効果が発生するか否かを判断することなく,被上告人の労働契約上の地位の確認請求及び本件解雇の日から判決確定の日までの賃金の支払請求を全部認容すべき旨の判断をした。

4 しかしながら,原審の上記判断のうち,契約期間の満了により本件労働契約の終了の効果が発生するか否かを判断することなく,被上告人の労働契約上の地位の確認請求及びその契約期間が満了した後である平成27年4月1日以降の賃金の支払請求を認容した部分は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

前記事実関係等によれば,最後の更新後の本件労働契約の契約期間は,被上告人の主張する平成26年4月1日から同27年3月31日までであるところ,第1審口頭弁論終結時において,上記契約期間が満了していたことは明らかであるから,第1審は,被上告人の請求の当否を判断するに当たり,この事実をしんしゃくする必要があった。

そして,原審は,本件労働契約が契約期間の満了により終了した旨の原審における上告人の主張につき,時機に後れたものとして却下した上,これに対する判断をすることなく被上告人の請求を全部認容すべきものとしているが,第1審がしんしゃくすべきであった事実を上告人が原審において指摘することが時機に後れた攻撃防御方法の提出に当たるということはできず,また,これを時機に後れた攻撃防御方法に当たるとして却下したからといって上記事実をしんしゃくせずに被上告人の請求の当否を判断することができることとなるものでもない。

ところが,原審は,最後の更新後の本件労働契約の契約期間が満了した事実をしんしゃくせず,上記契約期間の満了により本件労働契約の終了の効果が発生するか否かを判断することなく,原審口頭弁論終結時における被上告人の労働契約上の地位の確認請求及び上記契約期間の満了後の賃金の支払請求を認容しており,上記の点について判断を遺脱したものである。

5 以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,労働契約上の地位の確認請求及び平成27年4月1日以降の賃金の支払請求を認容した部分は破棄を免れない。そして,被上告人が契約期間の満了後も本件労働契約が継続する旨主張していたことを踏まえ,これが更新されたか否か等について更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

なお,その余の請求に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木澤克之 裁判官 池上政幸 裁判官 小池 裕 裁判官 山口 厚 裁判官 深山卓也)

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多忙により,ブログ更新が史上空前の遅れとなりました。

さて,この判決,どうしてわざわざ言及する気になったかというと,最高裁判所の態度として,「あれ?」と思うところがあったためです。

というのは,この事案は,「当事者の事実主張自体から契約期間満了の抗弁が成立することが自明であるにも関わらず,当事者が法律上の主張として契約期間満了の抗弁を主張しなかった。」という事案なのですが,最高裁判所は,従前,この手の事案の処理としては,原審の求釈明権行使懈怠の違法を問題としていたように思われます(例えば,最2判平成12年4月7日(平成9年(オ)第1876号・最高裁判所裁判集民事198号1頁)など)。

ところが,本判決は,求釈明権行使懈怠など一顧だにせずにすっ飛ばして,「前記事実関係等によれば,最後の更新後の本件労働契約の契約期間は,被上告人の主張する平成26年4月1日から同27年3月31日までであるところ,第1審口頭弁論終結時において,上記契約期間が満了していたことは明らかであるから,第1審は,被上告人の請求の当否を判断するに当たり,この事実をしんしゃくする必要があった。」などと判示しています。

私としては,「これはどうして?」と思ったわけです。

これは,「法律判断は裁判所の専権」との立場を従前からさらに徹底させて,「当事者の事実主張がある以上,当事者の法律上の主張がなくても,裁判所は法律上の主張として斟酌すべき。」というところまで踏み込んだといっていいのか(まぁ,ここまで大胆な判断を最高裁がするわけないですかね…。)。

それとも,特定の年月日の経過による期間満了(確定期限到来?)という事案の特殊性から,特別に求釈明権行使懈怠を云々せずに裁判所の斟酌義務を認めたものか(まぁ,こちらが穏当でしょうかね…。)。

本判決の趣旨は,この点では必ずしも明確ではなく,必ずしも予測可能性が確保されているとは言えないのですが,「裁判所の求釈明に対して,当事者が頓珍漢な釈明をしてしまった。」という事例では,裁判所の求釈明権行使懈怠を問題にしない立場の方が事案を適切に処理できることになるわけですから,私は求釈明権行使懈怠を問題にしない立場の方が好みなのですが,裁判所は,「そんな過大な責任負えるか!」ときっと思うのでしょうね。

 

 

 

2019年7月26日 (金)

東京地判平成30年7月24日(平成30年(レ)第33号)が,株式会社ピュアブライトインターナショナル代表取締役飯塚正及び奥村和久に対し,「被控訴人らは,被控訴人飯塚の実質的資力を偽って,控訴人に188万円を交付させたものと認められ,このような被控訴人らの行為について,控訴人に対する不法行為が成立すると認められる。」などとして,共同不法行為に基づき,122万1717円及び遅延損害金の支払を命じた第1審判決を維持する旨の控訴審判決を言渡し。

ちょっと古い話ですが,東京地判平成30年7月24日(平成30年(レ)第33号)が,株式会社ピュアブライトインターナショナル(神奈川県横浜市南区六ツ川1丁目668番地1)代表取締役飯塚正及び奥村和久に対し,「被控訴人らは,被控訴人飯塚の実質的資力を偽って,控訴人に188万円を交付させたものと認められ,このような被控訴人らの行為について,控訴人に対する不法行為が成立すると認められる。」などとして,共同不法行為に基づき,122万1717円及び遅延損害金の支払を命じた第1審判決を維持する旨の控訴審判決を言い渡しました。

情報元は,pdfファイルの提供を受けたのですが,pdfファイルのupの仕方が分からないので,省略させていただきます(ご希望の方にはお送りします。)。

………………………………………………………………………………………………………………………………

平成30年7月24日判決言渡し 同日原本交付 裁判所書記官

平成30年(レ)第33号 損害賠償等請求控訴事件(原審:武蔵野簡易裁判所平成28年(ハ)第203号)

口頭弁論の終結の日 平成30年5月15日

判決

●●●●

控訴人 ●●●●

横浜市南区六ツ川一丁目●●●番地● サ●ス●ル●横●弘●寺●●●号室

被控訴人 飯塚正

横浜市港北区新横浜三丁目●●番●● シ●ー●●●●

被控訴人 奥村和久

主文

1 本件控訴をいずれも棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を次のとおり変更する。

2 被控訴人らは,控訴人に対し,各自125万6092円及びこれに対する平成28年6月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,控訴人が,被控訴人らにおいて,別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の所有者を偽った上,本件建物に所有権移転仮登記がされていたにもかかわらずこれを秘し,本件建物を売却すれば控訴人に対する弁済資金を調達できるかのように装い,控訴人にその旨誤信させて被控訴人飯塚正(以下「被控訴人飯塚」という。)に対する188万円の貸付け(以下「本件消費貸借契約」という。)をさせた旨主張し,被控訴人らに対し,共同不法行為に基づき,各自損害金元本残額125万6092円及びこれに対する最後の弁済日の翌日である平成28年6月7日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。なお,控訴人は,予備的に,①被控訴人飯塚に対し,本件消費貸借契約に基づき,貸金残元金125万6092円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,②被控訴人飯塚の被控訴人奥村和久(以下「被控訴人奥村」という。)に対する50万円の貸金債権(以下「本件債権」という。)を被控訴人飯塚から譲り受けた旨主張し,被控訴人奥村に対し,消費貸借契約に基づき,貸金残元金48万3804円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,更に予備的に,被控訴人奥村において,本件債権の譲渡通知を受けながら被控訴人飯塚にその弁済として合計35万円を支払い,被控訴人飯塚において,被控訴人奥村から債権を回収した場合にこれを控訴人に引き渡す旨約しながら上記35万円を支払わなかった旨主張し,被控訴人奥村に対しては共同不法行為に基づき,被控訴人飯塚に対しては主位的に共同不法行為,予備的に委任契約に基づき,各自35万円及びうち3万円に対する平成25年12月16日から,うち3万円に対する同月17日から,うち6万円に対する平成26年2月28日から,うち3万円に対する同年3月19日から,うち10万円に対する平成27年3月16日から,うち10万円に対する同年4月15日からそれぞれ支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。

原審は,控訴人の被控訴人らに対する主位的請求を122万1717円及びこれに対する平成28年6月7日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容した。控訴人は,これを不服として控訴をした。

第3 控訴人の被控訴人飯塚に対する請求についての前提事実及び争点

1 前提事実(以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。)

(1) 控訴人は,平成25年9月18日,●●●●市内のファミリーレストランにおいて被控訴人飯塚と面談し,同日,被控訴人飯塚に対し188万円を交付し,少なくとも同額についての消費貸借契約(本件消費貸借契約)を締結した。

(2) 被控訴人飯塚は,平成25年9月19日,被控訴人奥村に対し,本件消費貸借契約の188万円を原資として,50万円を貸し付けた。

(甲14)

(3) 控訴人は,平成25年10月20日,被控訴人飯塚から,被控訴人飯塚の被控訴人奥村に対する上記(2)の貸金債権50万円(本件債権)を譲り受けた。

他方,被控訴人飯塚は,平成25年12月16日から平成27年4月5日までの間,被控訴人奥村から,本件債権の弁済として合計35万円の支払を受けたものの,これを控訴人に交付していない。

(甲15~甲20)

(4) 被控訴人飯塚は,平成27年5月18日,控訴人に対し,本件消費貸借契約にかかる弁済として合計80万円を支払った。

また,控訴人は,被控訴人奥村の知人である上松茂隆から,本件債権の弁済として,平成28年4月1日に3万円,同年5月2日に3万円及び同年6月6日に2万円の合計8万円の支払を受けた。

(甲94,乙4の2及び3)

(5) 本件建物の登記上,平成23年2月2日付けで同年1月10日売買を原因とする鈴木正明から飯塚奈奈に対する所有権移転登記がされ,同年9月15日付けで同月14日売買を原因とする同人から吉川稔(以下「吉川」という。)に対する所有権移転仮登記(以下「本件仮登記」という。)がされている。

(甲3)

2 争点及び当事者の主張

本件の争点及びこれについての控訴人及び被控訴人飯塚の主張は,以下のとおりである。

(1) 被控訴人飯塚の詐欺による不法行為責任の有無及び損害額

(控訴人の主張)

ア 被控訴人らは,控訴人から金員を詐取しようと企て,被控訴人奥村において,平成25年9月16日,控訴人に対し,「被控訴人飯塚に200万円を貸してほしい。貸付けの担保として本件建物の権利証を交付する。本件建物には先順位の担保権は付いていない。最悪の場合でも本件建物は現状400万円で売れるから,本件建物を売却して返済できる。資料をファックスする。」旨電話で告げた上,同日午後1時46分頃,控訴人に対し,平成23年9月9日付けの本件建物の全部事項証明書(甲1。以下「本件全部事項証明書」という。)をファクシミリで送信した。

本件全部事項証明書では,本件建物の所有者は被控訴人飯塚の妻である飯塚奈奈と記載され,所有権移転仮登記は記載されていなかった。しかし,平成23年1月10日に締結された鈴木正明と飯塚奈奈との間の本件建物の売買契約では所有権移転時期は代金完済時点とされ,平成25年9月時点では,その売買代金は未払であったことから,本件建物の真実の所有者は鈴木正明であった。また,本件建物には,同月時点において,平成23年9月14日売買契約を原因とする飯塚奈奈から吉川への本件仮登記がされていた。上記売買契約は仮装売買であり,実際は,吉川が被控訴人飯塚に対して200万円を貸し付け,その担保のために本件仮登記がされたものであったところ,平成25年9月時点では,被控訴人飯塚は,吉川に対し,上記200万円を完済していなかった。そのため,被控訴人らは,同月時点において,本件建物を売却して控訴人に対する弁済資金を調達するめどが立っていなかった。

イ 被控訴人らは,平成25年9月18日,●●●●市内のファミリーレストランで控訴人と面談し,控訴人に対し,本件建物の所有者が飯塚奈奈であり,本件建物を売却して控訴人に対する弁済資金を調達できるかのように装い,本件全部事項証明書を控訴人に提示した上で,「飯塚奈奈が本件建物を所有している。控訴人からの貸付けの担保として本件建物の権利証を交付する。本件建物には先順位担保権などは付いていない。売却価格は現状で400万円,融資額は200万円なので,絶対に取りっぱぐれはない。もし嘘なら詐欺になる。」旨告げた上で,控訴人に借入れを申し込み,控訴人にその旨誤信させ,貸金として188万円を交付させた。

上記の被控訴人らの行為は詐欺に当たり,控訴人に対する共同不法行為が成立する。なお,本件では,被控訴人らについて刑法上の詐欺罪が成立することを判決において明示的に認めるべきである。

ウ 控訴人は,被控訴人らの上記ア及びイの不法行為により,騙取金188万円及び甲第64号証の録音データを反訳した費用(以下「本件反訳費用」という。)3万140円の合計191万140円の損害を被った。

上記録音データには,被控訴人飯塚が鈴木正明に本件建物の売買代金を支払っていない旨話したことなどが録音されており,控訴人の主張を否定する趣旨を含むものとして被控訴人飯塚が本件訴訟において提出した鈴木正明及びその母の鈴木竹子の各陳述書(乙1,2)の信用性を否定し,被控訴人飯塚の主張を排斥するものであるし,被控訴人飯塚が普段から虚言を弄していることをも明らかにするものでもある。

したがって,上記録音データを本件訴訟に証拠として提出するに当たり必要となった本件反訳費用は,被控訴人らによる不法行為と相当因果関係のある損害である。

(被控訴人飯塚の主張)

争う。

(2) 被控訴人飯塚の残債務の有無ないし額

(被控訴人飯塚の主張)

ア 被控訴人飯塚は,本件消費貸借契約後,控訴人に対し,被控訴人飯塚の被控訴人奥村に対する50万円の貸金債権(本件債権)を譲渡し,これにより,被控訴人飯塚の控訴人に対する残債務は,控訴人の被控訴人奥村からの実際の回収額にかかわらず,50万円減額されて138万円となった。

イ 控訴人及び被控訴人飯塚は,平成27年5月15日,弁護士を交え,被控訴人飯塚の控訴人に対する残債務について,被控訴人飯塚が同月中に一部弁済し,残額については,被控訴人飯塚が控訴人に対して販売した健康食品「ノニジュース」(以下,単に「ノニジュース」という。)に係る代金債権と相殺処理する旨の合意をした。そして,被控訴人飯塚は,同月18日,控訴人が指定する預金口座に合計80万円を振り込んだほか,ノニジュースの代金70万円の明細書を控訴人の自宅にファクシミリで送信し,残債務について同代金債権と相殺した。

ウ よって,被控訴人飯塚に残債務はない。

(控訴人の主張)

ア 控訴人は,平成25年10月20日,被控訴人飯塚から,被控訴人奥村に対する本件債権の譲渡を受けたが,これは,債権譲渡と共に被控訴人飯塚の残債務を50万円減額する趣旨ではなく,控訴人が本件債権に係る弁済を受けた場合に,その金額だけ被控訴人飯塚の残債務を減額するという趣旨,すなわち,控訴人の被控訴人飯塚に対する債権の担保とする趣旨で譲り受けたものである。

イ 被控訴人飯塚は,控訴人に対する残債務につき,ノニジュースに係る代金債権と相殺した旨主張するが,控訴人は,被控訴人飯塚からノニジュースを受け取ったことはあるものの,これは,被控訴人飯塚から一方的に渡されたもので,控訴人が購入したものではない。したがって,控訴人は,被控訴人飯塚に対してノニジュースに係る代金債務を負わないし,被控訴人飯塚と控訴人との間に相殺合意も存在しない。被控訴人飯塚がノニジュースに係る証拠として提出した電子メールのやり取り(乙6),ノニジュースの納品書(乙13)及び控訴人名義の確認書(乙14)は,いずれも被控訴人飯塚によりねつ造されたものである。

ウ 被控訴人らからは,上記1(4)のとおりの弁済を受けており,これを充当計算すると,別紙計算書1のとおり,残元本額は125万6092円となる。

第4 控訴人の被控訴人飯塚に対する請求についての当裁判所の判断

1 前記第3の1の前提事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

(1) 被控訴人飯塚の妻で本件建物の所有名義人である飯塚奈奈は,平成23年9月13日付けで,吉川との間で,本件建物を200万円で売却する旨の売買契約書を作成した。その後,本件建物につき,同月15日付けで,同月14日売買を原因とする飯塚奈奈から吉川への所有権移転仮登記(本件仮登記)がされた。

本件仮登記は,実際には,吉川の被控訴人飯塚に対する200万円の貸付けの担保として登記されたものであった。

(甲3,10,11,25,94)

(2) 被控訴人奥村は,平成25年9月16日,知人であった控訴人に電話し,被控訴人奥村の友人である被控訴人飯塚に対して200万円を貸し付けることを申し入れた。その際,被控訴人奥村は,控訴人に対し,本件建物には担保が付いておらず,上記200万円の担保として十分な価値がある旨話し,その資料として,平成23年9月9日付けの本件全部事項証明書をファクシミリで送信した。本件全部事項証明書に本件仮登記は記載されていなかった。

(甲1,2,94,97)

(3) 上記(2)の申入れを受け,控訴人は,平成25年9月18日,●●●●市内のファミリーレストランにおいて被控訴人らと面談した。この際,控訴人と被控訴人飯塚は初対面であった。この面談において,被控訴人飯塚は,控訴人に対し,本件全部事項証明書の原本を提示し,被控訴人飯塚が弁済できない場合であっても,担保の付いていない本件建物を売却することにより弁済資金を調達できる旨などを述べた上で,200万円の貸付けを申し込んだ。控訴人は,被控訴人飯塚のこの申込みに応じ,同日,被控訴人飯塚に対し,188万円を交付した(本件消費貸借契約)。その際,被控訴人飯塚は,控訴人に対し,借入金額を200万円,返済日を平成26年3月17日と記載された借用書(以下「本件借用書」という。)を交付した。

(甲1,12,94,97)

(4) 被控訴人飯塚は,平成25年9月19日,被控訴人奥村に対し,上記(1)の188万円を原資として,50万円を貸し付けた(本件債権)。その上で,被控訴人飯塚は,同日,控訴人に電話し,被控訴人奥村に対して上記貸付けをしたことを告げた上で,更なる借入れを申し込んだ。これを不審に思った控訴人は,被控訴人飯塚に直ちに釈明に来るよう求める一方,インターネットを用いて本件建物の登記内容を確認したところ,本件仮登記の存在を知った。

控訴人及び被控訴人飯塚は,その日のうちに,●●●●市内のファミリーレストランで面談し,控訴人は,被控訴人飯塚に対し,本件建物に本件仮登記が存在していることなどを非難したところ,被控訴人飯塚は,控訴人に謝罪し,平成25年12月18日までに借入金を返済する旨話した。これを踏まえ,控訴人は,被控訴人飯塚に,本件借用書の返済期限を同日に訂正させ,この際,借入金額も188万円に訂正された。

(甲12~14,94,97)

(5) 被控訴人飯塚は,平成25年10月20日,控訴人に対し,本件債権を譲渡した。この際,被控訴人飯塚は,控訴人に対し,本件債権の借用書を交付したほか,本件建物に担保が付いているにもかかわらず無担保と偽っていた旨,本件債権を控訴人に譲渡し,被控訴人飯塚においてこれを集金した場合には全額を控訴人に持参して支払う旨などが記載されている控訴人宛ての文書に署名し,これを控訴人に交付した。

その後,被控訴人飯塚は,被控訴人奥村に対し,本件債権の譲渡をした旨伝え,また,控訴人も,被控訴人奥村に対し,本件債権の譲渡を受けた旨の通知をした。

(甲13,14,94,97,98)

(6) 被控訴人奥村は,本件債権の譲渡後にもかかわらず,被控訴人に対し,本件債権の弁済として,平成25年12月16日及び同月17日に各3万円,平成26年1月から同年2月までの間に合計6万円,同年3月19日に3万円並びに平成27年3月16日及び同年4月15日に各10万円の合計35万円を支払った。しかし,被控訴人飯塚は,控訴人に対し,上記35万円を支払わなかった。

他方,被控訴人飯塚は,平成27年5月18日,控訴人に対する債務の弁済として,控訴人が指定する預金口座に合計80万円を振り込んだ。

(甲15~20,94,97,乙4の2及び3)

(7) 控訴人は,平成27年,神奈川簡易裁判所書記官に対し,被控訴人奥村を債務者として本件債権の支払を求める支払督促を申し立て,同年3月6日,同申立てに基づき被控訴人奥村に対する支払督促が発付されたところ,被控訴人奥村による督促異議の申立てにより,手続は訴訟へ移行した(同裁判所同年(ハ)第804号事件)。

上記事件の平成27年12月9日の第4回口頭弁論期日において,控訴人と被控訴人奥村との間で,要旨以下の内容を含む和解が成立した(以下「本件和解」という。)。

①被控訴人奥村は,控訴人に対し,本件債権の残債務として12万円の支払義務があることを認め,平成27年12月30日限り6万円,平成28年1月末日限り6万円をそれぞれ支払う。

②被控訴人奥村が被控訴人飯塚に交付した35万円については,被控訴人奥村において責任を持って解決することを約束する。

③控訴人と被控訴人奥村は,控訴人と被控訴人奥村との間には,本件に関し,この条項に定めるもののほか何らの債権債務がないことを相互に確認する。

(甲22,23,94,95)

(8) 被控訴人奥村は,平成28年1月末日が経過しても,本件和解に基づく12万円の支払をしなかった。

控訴人は,本件訴訟の訴状をもって,本件和解に定める分割金合計12万円の支払を催告するとともに,訴状送達の日から1週間が経過したときは,本件和解の内容たる私法上の和解契約を解除する旨の意思表示をしたところ,本件訴訟の訴状副本は,平成28年4月24日に被控訴人奥村に送達された。

(甲94)

2 争点(1)(被控訴人飯塚の詐欺による不法行為責任の有無及び損害額)について

(1) 上記1(1)認定のとおり,本件仮登記は被控訴人飯塚の吉川に対する借入れの担保として登記されたものであるところ,本件消費貸借契約時点で同借入れに係る債務が消滅していたことについて,被控訴人飯塚は主張立証をしておらず,同時点において,本件仮登記の効力は存続していたものと認められる。そして,上記1認定の本件消費貸借契約に至る経緯及び控訴人の本件仮登記認識後の経緯によれば,控訴人が本件仮登記の存在を認識していれば,被控訴人飯塚に金員を貸し付けることはなかったと認められる。

そして,被控訴人らにおいて,本件消費貸借契約に際し,控訴人に本件仮登記が記載されていない本件全部事項証明書を提示するなどしたことは,本件仮登記の存在が控訴人に明らかになれば,控訴人から借入れをすることができないものと認識していたためと推認されるのであり,そうであれば,被控訴人らは,被控訴人飯塚の実質的資力を偽って,控訴人に188万円を交付させたものと認められ,このような被控訴人らの行為について,控訴人に対する不法行為が成立すると認められる。なお,控訴人は,被控訴人らにおいて,本件建物の所有者が飯塚奈奈であると偽った旨や被控訴人らについて刑法上の詐欺罪が成立することなどを判決において明示的に認めるべきである旨も主張するが,これらの主張は,本件における被控訴人らの不法行為の成否に影響を与えるものではなく,判断を要しない事情というべきである。

(2)ア 被控訴人らによる上記(1)の不法行為により,控訴人は,被控訴人飯塚に対して188万円を交付したと認められるから,これにより,控訴人は,同額の損害を被ったと認められる。

イ 控訴人は,本件反訳費用について,被控訴人らの不法行為と相当因果関係のある損害である旨主張する。しかし,上記(1)の説示によれば,本件反訳費用について,上記相当因果関係を認めることはできない。上記1認定の事実によれば,控訴人においても,本件仮登記の存在を知った時点で被控訴人らの責任を追及し,被控訴人飯塚は,その頃から本件建物が無担保と偽っていたことなどを自認し,本件訴訟においてもそのことは否定していないのであり,このような事情に照らしても,甲第64号証の録音データが控訴人の請求を基礎付けるために必要であったとは認められず,したがって,本件反訳費用を被控訴人らの不法行為による損害と認めることはできない。

3 争点(2)(被控訴人飯塚の残債務の有無ないし額)について

(1) 上記1認定の事実によれば,被控訴人飯塚による控訴人への本件債権の譲渡は,控訴人の被控訴人飯塚に対する債権の担保とする趣旨で行われたものと認めるのが相当である。すなわち,本件債権の譲渡は,本件建物に本件仮登記が設定されていたことなどが控訴人に発覚し,控訴人において被控訴人飯塚の弁済能力について疑義を抱いたことから行われたものであるが,被控訴人奥村による弁済の見込みなどが不明確である中で,被控訴人奥村からの実際の回収額にかかわらず,控訴人の被控訴人飯塚に対する債権が本件債権と同額の50万円減額する旨の合意がされたとは認め難く,本件債権の譲渡は,控訴人が本件債権に係る弁済を受けた場合に,その金額だけ被控訴人飯塚の控訴人に対する残債務を減額するという趣旨によるものであったと認められる。

(2) 被控訴人飯塚は,控訴人及び被控訴人飯塚との間で,被控訴人飯塚の控訴人に対する残債務について,被控訴人飯塚が控訴人に販売したノニジュースに係る代金債権と相殺処理する旨の合意をした旨主張し,同旨の供述(甲98参照)をするとともに,同主張に沿う証拠として,被控訴人飯塚が控訴人に同代金債権の請求をしたとする電子メール(乙6),控訴人宛ての納品書(乙13)及び同代金債権等の存在を確認する旨の控訴人名義の確認書(乙14)を提出する。

しかし,上記電子メール及び納品書については,控訴人はその受信ないし受領を否認しており,これらを裏付ける客観的な証拠はない。また,上記確認書については,控訴人が成立を否認しており,その真正な成立を認めるべき客観的証拠はない。そうすると,被控訴人飯塚の上記主張は,何らの客観的証拠に基づかないものである上,上記1及び2の認定判断に照らし,被控訴人飯塚の供述は容易に採用し難いというべきであるから,結局,同主張を認めるに足りる証拠はないことに帰する。

したがって,被控訴人飯塚が控訴人に対してノニジュースに係る代金債権を有していたとは認められず,これを自働債権とする被控訴人飯塚の相殺に係る主張は理由がない。

(3) 前記第3の1(4)認定のとおり,被控訴人飯塚は,平成27年5月18日,控訴人に対する債務の弁済として合計80万円を支払ったほか,被控訴人奥村の知人である上松茂隆は,控訴人に対し,本件債権に係る弁済として,平成28年6月6日までに合計8万円を支払い,これらが控訴人の被控訴人飯塚に対する債権に充当されたと認められる。

そして,控訴人の被控訴人飯塚に対する不法行為に基づく損害賠償請求権は,控訴人が被控訴人飯塚に188万円を交付した平成25年9月18日から損害金が生ずるから,平成28年6月6日時点での被控訴人飯塚の控訴人に対する残債務は,別紙計算書2のとおり,122万1717円となる。

第5 控訴人の被控訴人奥村に対する請求についての当裁判所の判断

控訴人は,被控訴人奥村に対する主位的請求の請求原因として,前記第3の2(1)の(控訴人の主張)のとおり主張するところ,被控訴人奥村は,原審及び当審の口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面を提出しない。したがって,被控訴人奥村において控訴人の請求原因事実を争うことを明らかにしないものとして,これを自白したものとみなす。

ただし,損害に係る因果関係の相当性は法的評価・判断を含むものであって,この点につき裁判所は当事者の自白に必ずしも拘束されないところ,前記第4の2(2)イと同旨の理由により,被控訴人奥村に対する請求においても,本件反訳費用を被控訴人らの不法行為による控訴人の損害と認めることはできない。

第6 結論

以上の次第で,控訴人の被控訴人らに対する主位的請求は,共同不法行為に基づき,各自122万1717円及びこれに対する平成28年6月7日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。よって,控訴人の主位的請求をその限度で認容した原判決は相当であって,本件控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第12部

裁判長裁判官 伊藤正晴

裁判官 井出弘隆

裁判官 唐津祐吾

(別紙)物件目録

(一棟の建物の表示)

所在 静岡県伊豆市修善寺字半経寺山3655番地1

静岡県伊豆市修善寺字金付免722番地

建物の名称 セザール修善寺A

構造 鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根11階建

床面積 1階 1022.44平方メートル

2階 478.70平方メートル

3階 434.62平方メートル

4階 434.62平方メートル

5階 434.62平方メートル

6階 437.92平方メートル

7階 418.12平方メートル

8階 418.12平方メートル

9階 418.12平方メートル

10階 418.12平方メートル

11階 418.12平方メートル

(敷地権の目的である土地の表示)

1 土地の符号 1

所在及び地番 静岡県伊豆市修善寺字半経寺山3655番1

地目 宅地

地積 1603.30平方メートル

2 土地の符号 2

所在及び地番 静岡県伊豆市修善寺字金付免722番

地目 宅地

地積 1434.71平方メートル

3 土地の符号 3

所在及び地番 静岡県伊豆市修善寺字上り山田739番

地目 宅地

地積 1808.26平方メートル

4 土地の符号 4

所在及び地番 静岡県伊豆市修善寺字杉原753番

地目 宅地

地積 224.80平方メートル

5 土地の符号 5

所在及び地番 静岡県伊豆市修善寺字半経寺山3654番1

地目 宅地

地積 1004.95平方メートル

(専有部分の建物の表示)

家屋番号 修善寺3655番1の805

建物の名称 805

種類 居宅

構造 鉄骨鉄筋コンクリート造1階建

床面積 9階部分 34.92平方メートル

(敷地権の表示)

土地の符号 1・2・3・4・5

敷地権の種類 所有権

敷地権の割合 10万分の237

(別紙)計算書1

省略

(別紙)計算書2

省略

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ちょっと古い判決ですが,敢えて取り上げてみました。

というのは,「詐欺師がどのようにして財物又は財産上の利益を騙取するか。」ということは,詐欺事件が発覚するたびに報道などされるので,学ぶ機会が多いのですが,「詐欺師がどのようにして民事訴訟において自己の財物又は財産上の利益の取得を正当化しようとするか。」ということは,あまり目に触れる機会がないので,参考になると思ったのです。

まぁ,「詐欺師に何か取られてからどのように戦うか。」を勉強するよりも,「詐欺師に何も取られないようにするにはどうするか。」を学ぶ方が,幸せな人生のためには絶対に必要なのですけどね,まぁ,人は,誰でも,不幸にして,詐欺師との戦いに身を投じるしかなくなることもあるわけで,ゴニョゴニョ…。

それから,この事件の詐欺師側の人間として,飯塚正,奥村和久及び上松茂隆の3名の名前が登場しましたが,調べてみると,3人とも,いわくつきの人物でしたね。

まず,飯塚正は,株式会社ピュアブライトインターナショナルの代表取締役ですが,かつて,株式会社ピュアブライトの代表取締役をしており,農林水産省は,平成20年8月27日,株式会社ピュアブライトに対し,有機JASマークの不適正表示で,処分を下していますね。

また,奥村和久及び上松茂隆は,偽装結婚に関連して,平成24年5月30日,電磁的公正証書原本不実記録及び同供用の容疑で逮捕され,平成24年6月19日,起訴されていますね。

他方,この東京地判平成30年7月24日(平成30年(レ)第33号)の事件では,貸付けは,平成25年9月18日に行われています。

すると,「飯塚正,奥村和久及び上松茂隆の3名(ひょっとしたら,飯塚正及び奥村和久の2名)の身元をよく調べれば,いわくつきだと分かるのであって,そうだとすれば,そもそも,貸付けを避けておくのが,詐欺師に騙されないための一番の近道だったのではないか?」という気がします。

まぁ,でも,目の前にいる人物がまさかいわくつきの人物だなんて,お金を貸す時点では,予想しないんでしょうねぇ…。

取り敢えず,「貸金業者から金を借りるならまだしも,友人,知人などに金を借りようとするやつは,ロクなやつがいない。」というくらいの心構えで生きていくのが,身を守るためにはちょうどいいのかも知れません。

2019年7月 4日 (木)

「花粉を水に」,「光で分解」などと表示したマスクに根拠が認められないとして,消費者庁が大正製薬,アイリスオーヤマなど4社に対し,措置命令発令。

情報元はこちら→https://news.nifty.com/article/domestic/society/12198-329380/

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マスク「花粉を水に」「光で分解」 消費者庁“根拠なし”と判断

2019年5月24日 (金)

ネバダ州ラスベガスの連邦地裁がMRI元社長エドウィン・ヨシヒロ・フジナガ被告人(72)に禁錮50年の判決を言渡し。

ネバダ州ラスベガスの連邦地裁がMRI元社長エドウィン・ヨシヒロ・フジナガ被告人(72)に禁錮50年の判決を言い渡しました。

情報元はこちら→https://news.nifty.com/article/domestic/society/12145-284299/

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MRI元社長に禁錮50年=投資詐欺事件-米地裁

2019年05月24日 09時41分 時事通信

【ロサンゼルス時事】米資産運用会社「MRIインターナショナル」による巨額詐欺事件で、ネバダ州ラスベガスの連邦地裁は23日、社長だったエドウィン・ヨシヒロ・フジナガ被告(72)に禁錮50年を言い渡した。被告は日本人投資家からだまし取った金をプライベートジェットや高級車、不動産の購入などに流用していた。

 米司法当局によると、フジナガ被告は2000年から13年ごろにかけて、診療報酬債権への投資と称して1万人以上から10億ドル(約1100億円)以上を集めた。15年に米国で起訴され、昨年11月に有罪評決を受けており、今回は量刑が焦点だった。

 共に米国で起訴されたMRI日本支店の元代表鈴木順造被告と元幹部ポール鈴木被告は今年4月に日本から身柄を引き渡されており、10月に審理が始まる予定。 【時事通信社】

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もともと,MRIは,ネバダ州には活動実態がなく,日本国内でのみ活動していたものであって,それにも関わらず,本社をネバダ州に置いたのは,日本の被害者及び日本の捜査機関による責任追及を免れるためだと言われていました(私も同意です。)。

まぁ,確かに,日本の被害者及び日本の捜査機関による責任追及は難しくなるのですが,これだけの大事件だと,日本で弁護団ができてみたり,日本の捜査機関が本腰を挙げて捜査してみたり,いろいろあるわけで,その結果,アメリカの証券取引委員会(でしたっけ?)までも動くこととなり,禁錮50年という日本ではありえない判決が出ました。

というわけで,「日本での責任を回避しようと思ったら,アメリカではるかに大きな責任を負ったよ。」という何とも気分爽快なオチで,私は「ざまぁみろ。」と思うわけですが,それでも,被害者の方々が救済されるわけではありません(若干の留飲は下がるのかも知れませんが,実害は何ら回復されません。)。

隠し資産などがないか,アメリカの法制度で,徹底的に暴いてくれるといいと思います。

 

2019年3月11日 (月)

最3判平成31年3月5日(平成30年(受)第1197号)が,「養子縁組の無効の訴えを提起する者は養親の相続財産全部の包括遺贈を受けたことから直ちに当該訴えにつき法律上の利益を有するとはいえない。」旨を判示。

最3判平成31年3月5日(平成30年(受)第1197号)が,「養子縁組の無効の訴えを提起する者は養親の相続財産全部の包括遺贈を受けたことから直ちに当該訴えにつき法律上の利益を有するとはいえない。」旨を判示しました。

情報元はこちら→http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/460/088460_hanrei.pdf

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主 文

原判決を破棄する。

被上告人の控訴を棄却する。

控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理 由

上告補助参加人代理人豊永寛二,同生島一郎,同豊永真史の上告受理申立て理由について

1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

(1) 亡Bを養親となる者とし,亡Cを養子となる者とする養子縁組届に係る届書が,平成22年10月▲▲日,徳島県a郡b町長に提出された。なお,亡Bは亡C及びその実姉の叔父の妻である。また,被上告人は当該実姉の夫であり,上告補助参加人は亡Cの妻である。

(2) 被上告人は,平成25年12月に死亡した亡Bの平成22年7月11日付けの自筆証書遺言により,その相続財産全部の包括遺贈を受けた。

(3) 被上告人は,平成28年1月,亡Cから遺留分減殺請求訴訟を提起された。

亡Cが平成29年10月に死亡したため,上告補助参加人は,上記訴訟を承継した。

2 本件は,被上告人が,検察官に対し,本件養子縁組の無効確認を求める事案である。

3 原審は,上記事実関係の下において,要旨次のとおり判断し,被上告人が本件養子縁組の無効の訴えにつき法律上の利益を有しないとして本件訴えを却下した第1審判決を取り消して,本件を第1審に差し戻した。

養親の相続財産全部の包括遺贈を受けた者は,養親の相続人と同一の権利義務を有し,養子から遺留分減殺請求を受け得ることなどに照らせば,養親の相続に関する法的地位を有するものといえ,養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受ける者に当たる。そうすると,被上告人は,亡Bの相続財産全部の包括遺贈を受けた者であるから,本件養子縁組の無効の訴えにつき法律上の利益を有する。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 養子縁組の無効の訴えは縁組当事者以外の者もこれを提起することができるが,当該養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることのない者は上記訴えにつき法律上の利益を有しないと解される(最高裁昭和59年(オ)第236号同63年3月1日第三小法廷判決・民集42巻3号157頁参照)。そして,遺贈は,遺言によって受遺者に財産権を与える遺言者の意思表示であるから,養親の相続財産全部の包括遺贈を受けた者は,養子から遺留分減殺請求を受けたとしても,当該養子縁組が無効であることにより自己の財産上の権利義務に影響を受けるにすぎない。

したがって,養子縁組の無効の訴えを提起する者は,養親の相続財産全部の包括遺贈を受けたことから直ちに当該訴えにつき法律上の利益を有するとはいえないと解するのが相当である。

(2) そして,被上告人は,亡Bの相続財産全部の包括遺贈を受けたものの,亡Bとの間に親族関係がなく,亡Cとの間に義兄(2親等の姻族)という身分関係があるにすぎないから,本件養子縁組の無効により自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることはなく,本件養子縁組の無効の訴えにつき法律上の利益を有しないというべきである。

5 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の訴えは不適法であり,これを却下した第1審判決は相当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮崎裕子 裁判官 岡部喜代子 裁判官 山崎敏充 裁判官 戸倉三郎 裁判官 林 景一)

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まぁ,確かに,今回の最3判平成31年3月5日(平成30年(受)第1197号)が指摘するとおり,「遺贈は,遺言によって受遺者に財産権を与える遺言者の意思表示である」わけですから,包括遺贈を受けた者は,単にそれだけでは,「当該養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることのない者」というほかないわけで,養子縁組無効確認の訴えにつき訴えの利益を欠くというのは,多分,正当なんでしょうね。

ただ,よくよく考えると,「じゃぁ,どういう関係なら,上記『直接影響を受ける』ということになるわけ?」という点は,必ずしも明確ではないです。

養子縁組の法律効果は,いうまでもなく,親子関係の発生なわけですが,「親子関係の発生の具体的効果は,何なの?」と考えると,多分,扶養義務の発生と相続権の発生だと思われます(この点,自信はないので,ほかにあったら誰か教えてください。)。

そうすると,「直接影響を受けるかどうか。」の判断のメルクマールとして,「扶養義務」と「相続権」の2つを挙げることができるように思えます。

ただ,扶養義務といっても,親子間の扶養義務,兄弟姉妹間の扶養義務,それ以外の親族間の扶養義務といろいろあるわけで,しかも,これらの扶養義務の存否は,「親子」という点では同一に見える事案でも,あるいは「兄弟姉妹」という点では同一に見える事案でも,あるいは「それ以外の親族」という点では同一に見える事案でも,具体的事案によって結論を様々異にするわけで,果たして,これが養子縁組無効確認の訴えの訴えの利益の存否を画すメルクマールとして本当に機能するのかどうか,疑問の余地は大きいでしょう。

そうなってくると,「直接影響を受けるかどうか。」の判断のメルクマールとしては,相続権の存否を問題にする方が,明確だろうなぁという気がします(相続放棄などの結果,相続人が変わっていくという問題はありますが,まぁ,それでも,メルクマールとして何とか機能するでしょう。)。

そのように考えると,最3判昭和63年3月1日(昭和59年(オ)第236号・民集第42巻3号157頁)が「これを本件についてみるに、原審が適法に確定した事実によれば、上告人は養親のDと伯従母(五親等の血族)、養子の被上告人Bと従兄弟(四親等の血族)という身分関係にあるにすぎないのであるから、右事実関係のもとにおいて、上告人が本件養子縁組の無効確認を求めるにつき前示法律上の利益を有しないことは明らかであり、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。」と判示することとも矛盾しないですしね。

ただ,そのように考えると,今度は,「建前上は『身分関係に関する地位』とか何とか言っておきながら,結局は『相続権』という『相続財産を取得できる地位』が決定的メルクマールになっているわけで,それだったら,包括受贈者について相続人と異なる取扱いを設ける理由は,必ずしも見当たらないんじゃね?」という疑問は,出て来ちゃいますよね…。

というわけで,私自身は,この論点については,必ずしも,「こうあるべき!」という持論は持っていないのですが,まぁ,「長い物には巻かれろ。」という感じで,今回の最3判平成31年3月5日(平成30年(受)第1197号)を取り敢えず受容しておこうと思います。

2019年2月19日 (火)

最3判平成31年2月19日(平成29年(受)第1456号)が「夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対し,特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできない 。」旨を判示。

最3判平成31年2月19日(平成29年(受)第1456号)が,「夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対し,特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできない 。」旨を判示しました。

情報元はこちら→http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/422/088422_hanrei.pdf

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主 文

原判決を破棄し,第1審判決中上告人敗訴部分を取り消す。

前項の部分につき被上告人の請求を棄却する。

訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理 由

上告代理人滝久男の上告受理申立て理由4について

1 本件は,被上告人が,上告人に対し,上告人が被上告人の妻であったAと不貞行為に及び,これにより離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったと主張して,不法行為に基づき,離婚に伴う慰謝料等の支払を求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1) 被上告人とAは,平成6年3月,婚姻の届出をし,同年8月に長男を,平成7年10月に長女をもうけた。

(2) 被上告人は,婚姻後,Aらと同居していたが,仕事のため帰宅しないことが多く,Aが上告人の勤務先会社に入社した平成20年12月以降は,Aと性交渉がない状態になっていた。

(3) 上告人は,平成20年12月頃,上記勤務先会社において,Aと知り合い,平成21年6月以降,Aと不貞行為に及ぶようになった。

(4) 被上告人は,平成22年5月頃,上告人とAとの不貞関係を知った。Aは,その頃,上告人との不貞関係を解消し,被上告人との同居を続けた。

(5) Aは,平成26年4月頃,長女が大学に進学したのを機に,被上告人と別居し,その後半年間,被上告人のもとに帰ることも,被上告人に連絡を取ることもなかった。

(6) 被上告人は,平成26年11月頃,横浜家庭裁判所川崎支部に対し,Aを相手方として,夫婦関係調整の調停を申し立て,平成27年2月25日,Aとの間で離婚の調停が成立した。

3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,被上告人の請求を一部認容すべきものとした。

上告人とAとの不貞行為により被上告人とAとの婚姻関係が破綻して離婚するに至ったものであるから,上告人は,両者を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負い,被上告人は,上告人に対し,離婚に伴う慰謝料を請求することができる。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 夫婦の一方は,他方に対し,その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めることができるところ,本件は,夫婦間ではなく,夫婦の一方が,他方と不貞関係にあった第三者に対して,離婚に伴う慰謝料を請求するものである。

夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが,協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても,離婚による婚姻の解消は,本来,当該夫婦の間で決められるべき事柄である。

したがって,夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は,これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても,当該夫婦の他方に対し,不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして,直ちに,当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。

第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは,当該第三者が,単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。

以上によれば,夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対して,上記特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。

(2) これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,上告人は,被上告人の妻であったAと不貞行為に及んだものであるが,これが発覚した頃にAとの不貞関係は解消されており,離婚成立までの間に上記特段の事情があったことはうかがわれない。したがって,被上告人は,上告人に対し,離婚に伴う慰謝料を請求することができないというべきである。

5 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の請求は理由がないから,第1審判決中上告人敗訴部分を取り消し,同部分につき被上告人の請求を棄却すべきである。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

裁判長裁判官 宮崎裕子 裁判官 岡部喜代子 裁判官 山崎敏充 裁判官 戸倉三郎 裁判官 林 景一)

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うわぁ!

この判決は,想定外でした。

恐らく,ほとんどの下級裁判所の裁判官にとっても,想定外だったのではないでしょうか。

不貞第三者に対する慰謝料については,判例が積み重なってきましたが,本日の最高裁判例を踏まえると,概ね,以下のとおりとなるでしょうか。

1.不貞行為慰謝料

  不貞された配偶者は,不貞第三者に対し,原則的に,不貞行為慰謝料などの損害の賠償を請求できる(以下の各判例)。

  (1) 最2判昭和54年3月30日(昭和51年(オ)第328号・最高裁判所民事判例集33巻2号303頁)

  (2) 最1判平成6年1月20日(平成3年(オ)第403号・最高裁判所裁判集民事171号1頁)

  ただし,一定の場合には,上記損害賠償請求が権利濫用として否定される(最3判平成8年6月18日(平成7年(オ)第2176号・家庭裁判月報48巻12号39頁))。

  また,甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において,甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは,特段の事情のない限り,丙は,甲に対して不法行為責任を負わない(最3判平成8年3月26日(平成5年(オ)第281号・最高裁判所民事判例集50巻4号993頁))。

2.離婚慰謝料

  夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対し,特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできない (最3判平成31年2月19日(平成29年(受)第1456号))。

3.未成年子の慰謝料請求

  夫婦の一方と肉体関係を持ち同棲するに至つた第三者は,夫婦間の未成年の子に対し,特段の事情がない限り,不法行為責任を負わない(以下の各判例)。

  (1) 最2判昭和54年3月30日(昭和51年(オ)第328号・最高裁判所民事判例集33巻2号303頁)

  (2) 最2判昭和54年3月30日(昭和53年(オ)第1267号・最高裁判所裁判集民事126号423頁)

以上を眺めると,最高裁判所は,「離婚及び未成年者の養育監護は,家庭内の問題だから,不貞第三者は,害意をもって不貞行為に及ぶなどの特段の事情がない限り,離婚慰謝料及び未成年子の慰謝料については,不法行為に基づく損害賠償責任を負わない。しかし,貞操侵害に加担したのは間違いないので,不貞行為慰謝料については,不法行為に基づく損害賠償責任を負う。」という思考回路であることがわかります。

しかし,私は,この最高裁の思考回路には反対です。

確かに,「不貞行為が存在すれば,直ちに離婚に至るわけでもないし,直ちに養育監護放棄に至るわけでもない。」というのは,間違いないでしょう。

しかし,他方で,不貞行為の結果として,離婚及び養育監護放棄が招来される事例も,間違いなく存在するでしょう。

そして,この2つの事案は,「前者は『不貞行為と離婚及び養育監護放棄との間の相当因果関係を欠く。』として慰謝料請求を否定し,後者は『不貞行為と離婚及び養育監護放棄との間の相当因果関係が認められる。』として慰謝料請求を肯定する。」と処理すれば足り,それ以上に,後者の事例で「害意などの特段の事情」などという要件を付加して慰謝料請求を原則的に否定する理由まではないと思うのですよね。

さらに言えば,最高裁判所の思考回路だと,「不貞行為の結果,離婚に至った。」という事例で,不貞された配偶者は,不貞配偶者に対して離婚慰謝料を,不貞第三者に対して不貞慰謝料を,それぞれ請求することになるのでしょうが,果たして,この両者の関係は,どうなるのでしょうか?

まず,金額は,「離婚慰謝料は300万円だが,不貞行為慰謝料は200万円!」などと差をつけるのでしょうか? 

仮にそのように処理するとして,離婚慰謝料300万円及び不貞行為慰謝料200万円は,重なり合う範囲で不真正連帯債務ということでいいのでしょうか?

また,仮にそのように処理するとして,不貞当事者の一方について発生した時効中断事由(特に請求)は,不貞当事者の他方についてどのような効力を有するのでしょうか?

手続的な問題についてみると,「不貞された配偶者が不貞第三者に対して離婚慰謝料を請求したが,最3判平成31年2月19日(平成29年(受)第1456号)判示の『特段の事情』が認められないため,離婚慰謝料の請求が認められない事例」では,裁判所は,不貞行為,婚姻関係破綻などの事実のみを縮小認定して不貞行為慰謝料を認容するのでしょうか(仮に縮小認定するとして,婚姻関係破綻の事実は,不貞行為慰謝料の要件事実に含まれうるのでしょうか?)?

また,不貞された配偶者と不貞配偶者の間の離婚訴訟に,不貞された配偶者の不貞第三者に対する不貞行為慰謝料請求を,人事訴訟法8条又は人事訴訟法17条によって併合することはできるのでしょうか(なお,最3決平成31年2月12日(平成30年(許)第10号)は,離婚慰謝料請求に関する事例か,不貞行為慰謝料に関する事例か,判然としません。)?

実務的な面で愚痴をこぼせば,不貞配偶者に対する離婚慰謝料請求の消滅時効の起算日は離婚成立時であるのに対し(最2判昭和46年7月23日(昭和43年(オ)第142号・最高裁判所民事判例集25巻5号805頁)),不貞第三者に対する不貞行為慰謝料の消滅時効の起算点は不貞行為(法解釈及び事案によっては婚姻関係破綻事実?)及び不貞第三者を知ったときと解さざるを得ないでしょうから(最2判昭和54年3月30日(昭和51年(オ)第328号・最高裁判所民事判例集33巻2号303頁)),両者の消滅時効完成日が異なることになり,債権管理が面倒なのですよね。

まぁ,細かい問題が出てくるのも問題ですが,何より,不貞行為で余所の家庭をぶっ壊しておきながら,「家庭崩壊については,特段の事情がない限り,責任を負いませ~ん!」というのが,納得いかないです。

2019年1月 5日 (土)

いわゆる23条照会をした弁護士会が,その相手方に対し,当該照会に対する報告をする義務があることの確認を求める訴えは,確認の利益を欠き,不適法である。

最2判平成30年12月21日(平成29年(受)第1793号)が,「いわゆる23条照会をした弁護士会が,その相手方に対し,当該照会に対する報告をする義務があることの確認を求める訴えは,確認の利益を欠き,不適法である。」旨を判示しました。

情報元はこちら→http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/205/088205_hanrei.pdf

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主 文

1 原判決を破棄する。

2 原判決別紙の照会についての報告義務確認請求に係る訴えを却下する。

3 前項の請求についての訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理 由

第1 事案の概要

1 本件は,郵便事業株式会社に対して弁護士法23条の2第2項に基づき原判決別紙の照会(以下「本件照会」という。)をした弁護士会である被上告人が,上記会社を吸収合併した上告人に対し,本件照会についての報告義務があることの確認を求める事案である。

2 原審は,上記の確認請求(以下「本件確認請求」という。)に係る訴えの確認の利益について次のとおり判断し,上記訴えが適法であることを前提として,本件確認請求の一部を認容し,その余を棄却した。

本件確認請求が認容されれば,上告人が報告義務を任意に履行することが期待できること,上告人は,認容判決に従って報告をすれば,第三者から当該報告が違法であるとして損害賠償を請求されたとしても,違法性がないことを理由にこれを拒むことができること,被上告人は,本件確認請求が棄却されれば本件照会と同一事項について再度の照会をしないと明言していることからすれば,本件照会についての報告義務の存否に関する紛争は,判決によって収束する可能性が高いと認められる。したがって,本件確認請求に係る訴えには,確認の利益が認められる。

第2 上告代理人二島豊太ほかの上告受理申立て理由第1の6について

1 所論は,本件確認請求に係る訴えに確認の利益を認めて本件確認請求の一部を認容した原審の判断には,法令の解釈を誤る違法があるというものである。

2 弁護士法23条の2第2項に基づく照会(以下「23条照会」という。)の制度は,弁護士の職務の公共性に鑑み,公務所のみならず広く公私の団体に対して広範な事項の報告を求めることができるものとして設けられたことなどからすれば,弁護士会に23条照会の相手方に対して報告を求める私法上の権利を付与したものとはいえず,23条照会に対する報告を拒絶する行為は,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成することはない(最高裁平成27年(受)第1036号同28年10月18日第三小法廷判決・民集70巻7号1725頁)。これに加え,23条照会に対する報告の拒絶について制裁の定めがないこと等にも照らすと,23条照会の相手方に報告義務があることを確認する判決が確定しても,弁護士会は,専ら当該相手方による任意の履行を期待するほかはないといえる。そして,確認の利益は,確認判決を求める法律上の利益であるところ,上記に照らせば,23条照会の相手方に報告義務があることを確認する判決の効力は,上記報告義務に関する法律上の紛争の解決に資するものとはいえないから,23条照会をした弁護士会に,上記判決を求める法律上の利益はないというべきである。本件確認請求を認容する判決がされれば上告人が報告義務を任意に履行することが期待できることなどの原審の指摘する事情は,いずれも判決の効力と異なる事実上の影響にすぎず,上記の判断を左右するものではない。

したがって,23条照会をした弁護士会が,その相手方に対し,当該照会に対する報告をする義務があることの確認を求める訴えは,確認の利益を欠くものとして不適法であるというべきである。

3 以上によれば,本件確認請求に係る訴えは却下すべきであり,原審の判断のうち本件確認請求の一部を認容した部分には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由がある。

第3 職権による検討

前記第2の説示のとおり,本件確認請求に係る訴えは却下すべきであり,原審の判断のうち本件確認請求の一部を棄却した部分にも,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

第4 結論

以上によれば,原判決の全部を破棄し,本件確認請求に係る訴えを却下すべきである。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

裁判長裁判官 菅野博之 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸 裁判官 三浦 守

……………………………………………………………………………………………………

23条照会は,照会者が弁護士会となっているので,本件といい,最3判平成28年10月18日(平成27年(受)第1036号・民集70巻7号1725号)といい,「弁護士会が相手方に何らかの請求をできるか。」という話になるわけです。

ただ,23条照会は,確かにそのシステム上は弁護士会が請求者なのですが,本質的に依頼者の利益のために行われるものですから(だからこそ,23条照会は,弁護士の受任事件の委任事務処理上の必要性がなければ,行うことができないわけです。),「依頼者が相手方に何らかの請求をできるか。」という問題の立て方をした方が,妥当だと思うのですよねぇ。

まぁ,これは,以前の下級審判例が,「23条照会は,弁護士会が照会者である以上,依頼者は,相手方に対し,何の請求もできない。」旨の判例を積み重ねた結果なのですが,この点は,最3判平成28年10月18日(平成27年(受)第1036号・民集70巻7号1725号)が「弁護士法23条の2第2項に基づく照会(以下「23条照会」という。)の制度は,弁護士の職務の公共性に鑑み,公務所のみならず広く公私の団体に対して広範な事項の報告を求めることができるものとして設けられたことなどからすれば,弁護士会に23条照会の相手方に対して報告を求める私法上の権利を付与したものとはいえず,23条照会に対する報告を拒絶する行為は,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成することはない。」旨を判示したことで,事情が変わったわけですから,それ以前の下級審判例に拘る必要はないのではないかと。

というわけで,私としては,「誰か,この点,頑張って最高裁の新判例をゲットして~!」と思います(自分ではやらない。)。

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